謹呈

絵本「おくち あーん!」が、できました。
この絵本は、診察室での出来事をもとに作りました。ご一読していただけましたら、幸いに存じます。
 十数年前、いつものように、診察の一番最後に「おくちの中、見せてね」と舌圧子を取り出したときのことです。それまで、診察に協力的だった大輔君が、突然「やだー!」と叫んで口を両手で押えてしまいました。付き添いのお母さんが、なだめても、看護師さんが大輔君の手を口元から外そうとしても、頑として受け付けません。私が、「大ちゃん、へら使わないから、おくち、あーんして」と頼んでも大泣きしていて聞き入れてくれません。風邪の症状が軽かったので、口腔所見をとるのを仕方なくあきらめました。
泣きながら、診察室を出た大輔君が、私が次の患者さんを呼ぼうとしたときにひとりで戻ってきました。緊張した面持ちで、「先生、おくち、あーん!します。でも、へらは、やめて」と早口で言いました。待合室で、診察を待っている赤ちゃんたちも、みんな「おくち、あーん」していると、お母さんに諭されたようでした。
もともと、私自身、舌圧子が苦手な子どもだったので、大輔君の一件以来、へらを嫌がるお子さんには、大きな口を開けるよう誘導して、ライトだけで口腔内の観察をするよう心がけています。現在の口開けの最年少記録は、8ヵ月です! お姉ちゃんの口開けをみていて学習したようです。
今まで口開けがどうしても嫌で、そのまま帰るお子さんは時折いましたが、大輔君のように戻ってきたお子さんはいません。
そこで、大輔君の勇気をなんとか形にしたいとずっと思っていました。
 また、診察時に「扁桃腺が腫れてますね」とか「口内炎ができてますね」と、おうちの方に伝えると、はっとしたように「だから、食べにくかったのですね。だらだら、食べているので、つい怒っちゃって、かわいそうなことをしました。もっと、早く気づいてあげればよかった。」と言われることがよくあります。
このような経緯で、おうちの方とお子さんが、楽しく口開けの練習ができる絵本にしました。
登場人物の中のかばくんは、ここ数年クローズアップされている「落ち着きのない子」
「友だちのできにくい子」です。ひょんなことから、「おくち、あーん!」コンテストで優勝して、みんなに尊敬されて自信がつき、人の役に立つ喜びを知り、仲間とのコミュニケーションもうまくとれるようになります。このことも、私は診察室で学びました。
 この本は自費出版です。そのため、「こどものこみち21」という会を作りました。
「こみち」は、散歩道や路地裏という、心なごむところです。これからも、こどもとおとなの「こみち」になりたいと願っています。 何卒宜しくお願い申し上げます。

著者 (社)発達協会・王子クリニック 竹内紀子